はじめに
「スタッフがなかなか帰らない」「終業時間を過ぎても片付けや引き継ぎが終わらない」――多くのクリニックで共通する悩みです。残業が常態化すると人件費の増加だけでなく、疲労によるミスや離職の原因にもなります。単に「早く帰るように」と指示しても、根本的な解決にはつながりません。大切なのは、業務の整理や引き継ぎ、声かけといった“働き方そのもの”を評価の中に組み込むことです。この記事では、残業を減らすための評価観点として、現場で実践しやすい方法を具体的に解説します。
クリニックで残業が発生する主な要因
終業後の片付け・清掃業務の属人化
片付けや清掃を特定の人が担当していると、その人の退勤時間が遅くなります。全員が「自分の持ち場だけでなく共通部分も整える」という意識を持たなければ、残業は減りません。業務の最後に「片付けタイム」を設けてチーム全体で行うことで、終了時間のばらつきを減らせます。
引き継ぎ不足や連絡漏れによる業務の後ろ倒し
患者対応や検査結果の共有がスムーズに行われないと、次のシフトにしわ寄せが生じます。業務終了前に「誰に、何を、どこまで伝えるか」を明確にし、引き継ぎチェックリストを使うだけで、残業時間は大幅に短縮されます。
チーム内コミュニケーションの不足
「忙しそうだから声をかけにくい」といった心理的距離が、非効率を生みます。お互いに「一言声をかける」文化をつくることで、作業の重複やミスが減り、結果として残業も減ります。
繁忙期や予約対応のばらつきによる業務負荷
季節によって外来患者数が増減するクリニックでは、繁忙期に残業が増える傾向があります。繁忙期のスケジュール設計と、スタッフ配置の見直しが必要です。業務量に応じて役割を見直すことで、特定の人に負担が偏らない仕組みができます。
残業削減の第一歩は「評価軸」の見直しから
時間の長さではなく「業務の質」を評価する
「長く働いた人が頑張っている」という評価軸では、残業は減りません。限られた時間内で成果を出すことを評価に含めることで、時間意識が自然と変わります。例えば、「診療終了から30分以内に退勤できるよう準備しているか」を評価項目に加えると、行動が変わります。
「早く終える工夫」も評価項目に含める
業務を効率化するための工夫を評価に含めると、スタッフの意識が変わります。「道具の配置を見直した」「患者対応の手順を改善した」など、日常の小さな工夫を認める仕組みが重要です。単なるスピードではなく、品質を保ちながら早く終える力を見極めます。
行動評価を導入して成果以外の貢献を可視化する
医療現場では、チームの協力や段取り力といった“成果以外の貢献”も多く存在します。行動評価を取り入れると、こうした部分を見逃さず評価できるようになります。結果として「自分の工夫が見られている」と感じ、業務改善への意欲が高まります。
残業を前提としない運用ルールの明文化
「終業後30分以内にはすべての業務を終える」など、明確なルールを設定することが重要です。ルールがないと「もう少しだけ」と残業が常態化します。時間管理の意識を職場全体で共有することが、残業削減の第一歩です。
片付け・整理整頓の評価観点
「片付け力」は業務効率の基盤
片付けが苦手な職場では、探し物の時間が積み重なり残業の原因になります。片付け力は「業務を整える力」として評価するべきです。物の配置をルール化することで、誰でも同じ場所から作業を始められ、業務の流れがスムーズになります。
片付けを評価項目に入れる具体的な方法
評価シートの行動項目に「使用後の備品を元の位置に戻している」「翌日の準備を終えて退勤している」などを入れると、片付けを意識的に行うようになります。評価対象にすることで、習慣として定着しやすくなります。
個人任せにせず「全員で片付ける」文化を作る
個人任せではなく「診療終了後の10分間は全員で片付け」というルールを設定すると、共通の動きが生まれます。全員で行うことで負担感が減り、自然と協力意識が生まれます。
診察室・バックヤードの片付けルール例
「使用済み器具はトレーにまとめる」「共有棚は担当制にする」「翌日のカルテ準備は〇時まで」など、具体的なルールを定めておくと無駄な作業が減ります。誰が見ても分かるルール化が残業防止につながります。
引き継ぎ・連携の評価観点
引き継ぎ不備が残業を生む仕組み
引き継ぎが曖昧なまま勤務が終わると、次の担当者が確認に時間を取られます。これが連鎖すると終業時間が後ろ倒しになります。情報共有の漏れを防ぐことが、残業削減の大きなポイントです。
評価に使える引き継ぎ行動のチェックポイント
「次の担当者にわかるメモを残している」「申し送り事項をカルテ・システムに入力している」「重要案件は口頭でも伝えている」といった行動を評価項目に入れると、引き継ぎの質が安定します。曖昧な伝達が減ることで、業務の滞りが防げます。
「報告・連絡・相談」を可視化する仕組みづくり
報連相が機能しないと、誰が何を把握しているか不明瞭になります。共有ボードやチャットツールを使い、重要な連絡を一覧化するだけで、抜け漏れを防げます。可視化の仕組みが、チーム全体の時間を守ります。
口頭伝達に頼らない引き継ぎフォーマットの活用
紙や口頭だけでの引き継ぎは、ミスの温床になりがちです。簡易的なテンプレートを活用し、誰でも同じ形式で記録できるようにします。電子カルテ内の「引き継ぎメモ」機能を活用するのも有効です。
声かけ・協力体制の評価観点
チームワークが残業削減に与える影響
スタッフ同士の協力体制が整うと、自然と作業が分担され残業が減ります。声かけの習慣がある職場ほど、助け合いが生まれ、個人の負担が軽くなります。
「手伝いましょうか」の一言を評価する文化
他人の業務に気づき、声をかけることは立派な行動評価項目です。評価基準に「周囲の業務を手伝おうとする姿勢」を加えることで、協力的な行動が増えます。
忙しい人を見て動ける人材を評価する仕組み
「自分の仕事だけをこなす人」より、「チーム全体を見て動ける人」を評価する仕組みが大切です。こうした人が増えることで、自然と残業が発生しにくい体制が整います。
協力行動を促すためのリーダーの関わり方
リーダーは「気づいたことを声に出す」「感謝を伝える」を意識すると、チーム全体の空気が変わります。協力行動が評価される文化を作るには、リーダーの声かけが欠かせません。
評価制度に組み込むための設計ポイント
定量評価と定性評価のバランスを取る
残業削減の成果だけを数値で見るのではなく、行動や姿勢の面も評価します。短期的な成果だけでなく、持続的な改善行動を評価に組み込むことがポイントです。
行動基準を明文化し、誰でも判断できる形にする
評価者が変わってもブレないよう、「どういう行動が高評価なのか」を明確にします。具体的な行動例をリスト化すると、公平性が高まります。
院長・リーダーが現場で観察できる範囲に絞る
観察できない項目を評価対象にすると、不公平感が生まれます。実際に見える範囲での行動を中心に評価項目を設定すると、納得度が上がります。
評価と改善を繰り返す運用サイクルの作り方
評価結果を定期的に振り返り、課題や改善点を次期に反映させます。PDCAを回すことで、評価制度が形骸化せず継続的に改善されます。
残業削減を実現する仕組みづくり
定期ミーティングで改善提案を共有する
「残業が発生した要因」を振り返る時間を設けることで、改善のアイデアが現場から生まれます。小さな気づきを拾い上げる場をつくることが重要です。
スタッフ主導でルールを見直す仕掛け
現場の声をもとにルールを見直すと、納得感が高まります。「こうすれば効率的に動ける」という提案を歓迎する姿勢が、継続的な改善につながります。
残業削減を賞与・評価に反映させる方法
残業削減の努力が報われる仕組みを作ることで、モチベーションが上がります。「チーム全体で残業を減らしたら評価アップ」というように、組織単位での成果を反映させるのも効果的です。
成果を数値で見える化して継続モチベーションを高める
残業時間や業務効率をグラフで見える化すると、改善の実感が得られます。成果を共有することで、チーム全体が前向きに取り組む雰囲気が生まれます。
院長が意識すべきマネジメント視点
「効率的に働く人を評価する」姿勢を示す
院長が「効率を重視する」という姿勢を明確にすると、スタッフも安心して行動を変えられます。評価の方向性を示すことが、職場文化を変える第一歩です。
院長自身の働き方がスタッフに与える影響
院長が遅くまで残っていると、スタッフも帰りにくくなります。率先して定時退勤を実践することで、「早く帰っても良い職場」というメッセージが伝わります。
指摘よりも「共に考える」スタンスの重要性
問題を指摘するよりも、「どうすれば減らせるか」を一緒に考える姿勢が、信頼関係を築きます。スタッフが安心して提案できる雰囲気づくりが大切です。
残業削減を通じてチームの信頼関係を強化する
残業を減らす取り組みは、単なる業務効率化ではなく、チーム力を高める活動です。協力し合う文化が定着すれば、自然と組織全体が前向きに動き始めます。
まとめ
クリニックでの残業削減は、個人の努力ではなくチーム全体の仕組みで達成するものです。片付け・引き継ぎ・声かけといった日常行動を評価制度に組み込むことで、全員が同じ方向に動けるようになります。行動の変化が職場の空気を変え、結果的に「早く帰れるのに質が下がらない」クリニック運営が実現します。評価制度を通じて残業削減を文化として根づかせることが、持続的な組織運営の鍵です。
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投稿者プロフィール

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柏谷横浜社労士事務所の代表、柏谷英之です。
令和3年4月からすべての企業に「同一労働同一賃金」が適用されました。
「同一労働同一賃金」に対応するため、もし正社員と非正規雇用労働者(契約社員、パート社員等)の間に不合理な待遇差があるなら是正しなくてはいけません。
また少子高齢化を背景に、働き方の転換のための「働き方改革」が推進されています。
残業時間の上限規制(長時間労働の是正)、有給休暇の取得義務化、令和4年に続き令和7年4月と10月の育児介護休業法改正など、法律はめまぐるしく変わっています。
「ブラック企業」という言葉が広く浸透し、労働条件が悪いと受け取られる企業は採用にも苦労しています。
法律に適した労務管理で、働きやすい職場環境を整え、従業員の定着や生産性の向上など、企業の末永い発展をサポートします。お困り事やお悩み事がありましたら、お気軽にご相談ください。
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