はじめに
クリニックにおける「受付対応」は、患者が最初に接する場面であり、医療の質を体感する最初の瞬間でもあります。診療の丁寧さや技術の高さよりも、受付や電話での印象がそのままクリニック全体の評価につながることも少なくありません。しかし、受付対応は数値化しにくく、院長の主観で判断されがちな領域です。この記事では、受付・電話対応を評価に組み込み、誰が見ても納得できる「見える化」の方法を、実務的な観点から詳しく解説します。
受付対応を評価に入れる重要性
第一印象がクリニックの印象を決める
患者がクリニックを評価する際、最初に感じるのは医師ではなく受付スタッフの対応です。笑顔や声のトーン、案内の仕方ひとつで「このクリニックは安心できる」と感じるか、「もう来たくない」と思うかが決まります。評価制度の中でこの要素を明示することで、スタッフが自分の対応を意識し、改善するきっかけが生まれます。
受付対応がリピート率や口コミに影響する
リピート率を上げるうえで、受付対応の質は極めて重要です。丁寧な応対をされた患者は口コミで紹介してくれる可能性が高く、結果的に集患にもつながります。評価項目として「印象」や「安心感」を組み込むことで、患者の体験を経営に還元できる仕組みができます。
医療スタッフ全体の接遇意識を底上げできる
受付の対応を明確に評価すると、看護師や医師など他職種も「患者対応」を意識するようになります。クリニック全体の雰囲気が良くなり、チームワークにも良い影響を与えます。評価の対象を受付だけに限定しない設計が理想です。
評価に入れることで改善意識が高まる
「評価に含まれる」と意識することで、スタッフは自分の行動を振り返りやすくなります。単なる叱責や指摘ではなく、成長を促す仕組みとして機能させることができます。
電話応対・窓口対応に共通する評価の考え方
技術評価ではなく「態度評価」として設計する
電話や受付対応を評価する際、重要なのは「正確さ」よりも「印象」です。多少の手順ミスよりも、言葉遣いや態度の方が患者の満足度に直結します。行動評価や態度評価として基準を設けることが適切です。
患者視点での印象を基準にする
スタッフ目線で「問題ない」と思っていても、患者にとっては冷たく感じることがあります。評価項目を作成する際は、患者の立場で「どう感じるか」を重視します。患者アンケートやフィードバックを参考にするのも有効です。
「声のトーン」「言葉遣い」「姿勢」など行動基準に落とし込む
曖昧な評価は不公平を生みます。例えば「感じが良い」ではなく、「電話に3コール以内で応答している」「患者の目を見て挨拶している」といった行動ベースで定義することが重要です。
スタッフが自ら気づける仕組みにする
自己チェックリストやフィードバックシートを用意し、スタッフ自身が日常的に振り返れる仕組みを整えると、主体的な改善につながります。
電話対応を評価するための具体的な基準
初回応答のスピードと印象
電話が鳴ってから何コール以内に応答するかは、対応品質の基本です。応答が遅れると不安を与えるため、「3コール以内」を目標に設定するクリニックが多いです。さらに、「声の明るさ」や「名乗り方」も基準化しておくと効果的です。
声のトーン・言葉遣い・聞き取りやすさ
電話では表情が見えないため、声の印象が全てです。明るくはっきりとした声、丁寧な言葉遣い、聞き返しの少なさなどを評価項目に盛り込みます。録音チェックやロールプレイを通じて確認できます。
要件の正確な把握と伝達力
患者の要望を正確に把握し、医師や看護師に正確に伝える力は重要です。特に予約変更や薬の問い合わせなど、ミスが診療に影響するケースもあります。評価では「情報整理力」や「報告の正確さ」も含めると良いでしょう。
保留・転送・折り返しの対応の丁寧さ
患者を保留にする際の一言や、転送時の案内があるかどうかは印象を左右します。「少々お待ちください」だけではなく、「○○に確認してまいります」といった具体的な案内を行えているかを評価します。
感情的な対応を防ぐためのチェックポイント
忙しい時間帯ほど、対応が雑になったり感情的な声のトーンが出てしまうことがあります。感情のコントロールや冷静な受け答えを評価項目として明示し、定期的にフィードバックを行うことが重要です。
窓口対応を評価するための具体的な基準
来院時の挨拶・笑顔・目線の使い方
患者が受付に来た瞬間の挨拶が、印象を大きく左右します。「おはようございます」「こんには」などの声かけを欠かさず、目を合わせて対応できているかを評価します。笑顔の有無も大切です。
診療内容や待ち時間の説明の分かりやすさ
待ち時間の説明が不足すると、患者の不満が高まりやすくなります。診療状況に応じて「あと何人待ち」などを明確に伝えられているか、説明の仕方を評価に含めます。
お金の受け渡しや事務処理時の丁寧さ
金銭のやり取りは信頼に直結する部分です。両手で受け渡ししているか、レシートの扱いが丁寧かなど、基本的な所作を評価項目にします。忙しくても慌てた印象を与えない工夫が必要です。
クレームや困りごとへの対応姿勢
トラブル時の態度は最も印象に残る場面です。冷静に傾聴できているか、他のスタッフへ連携できているかなど、行動基準を具体的に設けておきます。
患者が退室するまでの印象管理
会計後や帰り際の対応も忘れがちな評価ポイントです。「お大事になさってください」といった一言があるか、最後まで気持ちの良い対応ができているかをチェックします。
接遇チェックリストの作り方
「行動」を単位にしたチェック項目にする
評価の抽象度を下げるために、行動レベルで表現することが大切です。「笑顔で対応している」「相手の話を遮らない」など、観察可能な行動にします。
主観を排除するために段階評価を設定する
「できている・できていない」ではなく、「常に・時々・ほとんどできていない」といった3~5段階評価を設定し、客観性を確保します。
受付・電話対応それぞれに分けて設計する
一つのシートでまとめず、電話と窓口対応を分けて評価する方が精度が上がります。業務内容が異なるため、評価基準も明確に区別します。
院長だけでなく第三者の視点を入れる
評価を公平にするために、リーダーや外部講師など第三者の視点を取り入れるのが望ましいです。本人の自己評価と比較してギャップを可視化します。
定期的な観察・評価の運用方法
院長・リーダーによるローテーション評価
評価を特定の人だけが行うと偏りが出るため、複数人が交代でチェックする体制を整えます。異なる視点からの評価はスタッフの成長を促します。
模擬電話・ロールプレイによるトレーニング
定期的なロールプレイを行い、実際の対応を想定して評価します。緊張感を持ちながら改善点を具体的に指摘できる場として活用します。
患者アンケートを補助的に活用する
アンケート結果をそのまま評価には使わず、補足情報として扱うのが適切です。定性的な意見を参考に、評価基準を微調整していきます。
評価の記録を定期的に振り返る仕組み
半年や年ごとに評価結果を見直し、改善傾向を確認します。単発で終わらず、継続的な改善サイクルを作ることが大切です。
スタッフに伝わるフィードバックの仕方
指摘ではなく「期待を伝える」姿勢を持つ
評価は「注意」ではなく「成長支援」の場と位置づけます。改善点を伝える際も、期待や信頼を前提にした言葉選びを意識します。
改善点と良い点をセットで伝える
ポジティブなフィードバックを先に伝え、その上で改善点を加えることで、スタッフが前向きに受け止めやすくなります。バランスが大切です。
定量的な数値より「印象変化」を重視する
受付対応は数値よりも印象の変化を評価する方が現実的です。以前より落ち着いた、明るくなったといった定性的な成長を重視します。
面談を通じて接遇の意識を高める
評価の結果をそのまま伝えるだけでなく、スタッフが「どう感じたか」を話す場を設けることで、気づきが深まり行動につながります。
評価を接遇研修と連動させる
研修内容を評価基準と一致させる
研修で学んだ内容が評価項目と連動していれば、スタッフは「何を意識すれば良いか」が明確になります。
ロールプレイを取り入れた定期的な練習
実際の対応を再現する研修を取り入れることで、知識を行動に落とし込むことができます。評価と連携すれば実践度が上がります。
評価結果をもとに個別フォローを行う
評価表を用いて個別面談を行い、強みと課題を整理します。これにより、指導が属人的にならず一貫性を保てます。
新人教育と連動させて早期定着を図る
新しく入ったスタッフには、評価基準を研修の中で明示し、早期に行動を定着させます。基準が最初から明確であれば指導の手間が減ります。
受付評価の「見える化」を支えるツールと仕組み
チェックリストや評価表のフォーマット化
Excelやクラウドフォームを活用して、評価表を簡単に運用できるようにします。誰が見ても同じ基準で判断できる形に整備することが重要です。
定期アンケート・録音確認などの導入
定期的に電話応対を録音し、フィードバックの材料にします。音声確認は自己評価にもつながる効果的な手法です。
デジタルツールを使った評価共有の仕組み
Googleフォームや評価管理ツールを使えば、複数の評価者で共有しやすく、集計もスムーズに行えます。院長がいつでも確認できる体制が理想です。
改善点をチームで話し合う場を設ける
個人評価だけで終わらせず、チーム全体で「どうすればより良い対応ができるか」を話す時間を設けると、前向きな雰囲気が生まれます。
評価運用で注意すべきポイント
評価が「監視」にならないようにする
評価を恐れて萎縮してしまうと、自然な笑顔や柔らかい対応が失われます。目的は改善であることを明確にし、安心感を与える伝え方を心がけます。
主観的な好みを排除する
「明るすぎる」「落ち着きすぎている」といった主観的な好みで判断しないよう、行動と態度を基準にします。評価者間のすり合わせが必要です。
評価頻度を多くしすぎない
頻繁に評価を行うと負担になり、形骸化します。年2回程度を目安に設定し、必要に応じてスポット確認を行うのが現実的です。
改善が続くようにモチベーション管理を行う
評価後に成果を共有したり、改善が見られた際に院長から感謝を伝えることが、継続的な改善のモチベーションになります。
まとめ
受付や電話応対は、クリニックの「顔」として信頼を築く最前線です。印象は目に見えないものですが、行動基準を明確にして評価に組み込むことで、見える化が可能になります。丁寧で一貫した対応ができるスタッフが増えれば、患者満足度の向上だけでなく、スタッフ間の協力意識も高まります。評価制度を通じて「感じの良いクリニック」を文化として育てることが、持続的な成長につながるでしょう。
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投稿者プロフィール

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柏谷横浜社労士事務所の代表、柏谷英之です。
令和3年4月からすべての企業に「同一労働同一賃金」が適用されました。
「同一労働同一賃金」に対応するため、もし正社員と非正規雇用労働者(契約社員、パート社員等)の間に不合理な待遇差があるなら是正しなくてはいけません。
また少子高齢化を背景に、働き方の転換のための「働き方改革」が推進されています。
残業時間の上限規制(長時間労働の是正)、有給休暇の取得義務化、令和4年に続き令和7年4月と10月の育児介護休業法改正など、法律はめまぐるしく変わっています。
「ブラック企業」という言葉が広く浸透し、労働条件が悪いと受け取られる企業は採用にも苦労しています。
法律に適した労務管理で、働きやすい職場環境を整え、従業員の定着や生産性の向上など、企業の末永い発展をサポートします。お困り事やお悩み事がありましたら、お気軽にご相談ください。
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