就業規則を理由に3ヵ月以上退職を認めないことは可能か?

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労働基準法89条で「常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。」と定められていて、その中には「退職に関する事項(解雇の事由を含む。)」が含まれています。

これにより就業規則において、退職は「3ヵ月以上前に会社に申し出て承認を得ること」のような規定を設けているケースがあります。この場合に、すぐにでも退職したいという従業員がいた場合、いつ退職となるのかが問題となります。

退職は、二週間前の申し出で可能

会社としてみれば、次の従業員を探す期間、新しい従業員に業務の引継ぎをする期間が欲しいですから、退職は1ヵ月から3ヵ月前に申し出ることとしている会社も多いです。

規則通り、3ヵ月前に退職を申し出て、業務の引継ぎをして円満退職となれば良いですが、もう会社が嫌になってすぐにでも退職したいというケースも多々あります。

民法627条では、期間の定めのない雇用契約はいつでも解約の申入れができ、「解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する」とされています。原則的には、就業規則において退職の定めをしていれば一定の効果があり、3ヵ月前の退職申し出を規定していてもすぐに無効とはされないでしょう。
しかしすぐに退職したい従業員が出た場合に、民法の規定を超えて3ヵ月退職を認めないことはできません。

では就業規則の意味は?

「じゃあ、就業規則に退職申し出は3ヵ月前と規定しても意味ないよね?」とおっしゃる社長もいます。確かに民法の定め超えて会社に有利な就業規則は認められません。しかし円満退職したくないと考える人は多くありませんので、通常であれば就業規則に従って3ヵ月前に退職を申し出て、業務の引継ぎを行います。会社の原則的なルールとして定めておけば、そのように進みます。会社と従業員が良い関係であれば何ら問題も起こりません。こちらは、いわゆる合意退職にあたります。

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運営責任は会社にある。

「次の人を連れてこないと退職を認めない」「引継ぎが100%完了するまで退職を認めない」というような話を聞きます。しかしこれは会社の責任であり、従業員がこれを理由に退職できないということは認められません。
「次の人を見つけて、その人に業務を引き継ぐまでは退職してもらっては困る」というのは会社の都合です。「就業規則を破って辞めるのだから損害賠償を請求する」というようなことも認められません。

誰かが突発的に抜けても業務がまわる仕組みを作る

「この会社は俺(私)が辞めたら回らない」という従業員がいます。確かにそのような状況の会社もあり、早々に解消する必要があります。このような状況の場合、従業員の要求がエスカレートしていきます。「昇給しろ、賞与を増やせ、その日のシフトは無理」等々。

ある業務が一人のスタッフにしかできないようになっている場合、働き方改革関連での義務でもある長時間労働の削減、有給の5日利用義務などの対応にも影響が出ます。
業務の洗い出しを行い、複数人がその業務をこなせるようにしておかなければ、業務の効率化や、円滑なシフト作成もできませんし、従業員は育児休業も取れません。

誰かに属人化している業務があるなら見直しておきましょう。その従業員にしてみても「私しかできない仕事をしているのに給料、賞与が少ない。有給休暇も取れない」と不満をつのらせ、急に退職すると言い出すケースもあります。

まとめ

退職は、一方的な意思表示の場合、申し出てから二週間で成立します。
従業員が退職を口にした時は、もうほとんど意思は固まっています。就業規則の規定に従った、円満な合意退職なら良いですが、不満を募らせての退職の場合、トラブルとなるケースが多いです。

退職の申し出後に、「明日から退職日まで全部有給休暇を使います。」というようなケースも実質的に拒否できません。「就業規則を守っていない。引継ぎもしていない」と言ってみたところで退職金を減額するというくらいしかできません。中小企業ではその退職金もない会社がほとんどです。

退職後に未払い残業代を請求するケースもあります。未払い残業代についてはこちら

そうならないように普段から労使関係を良好に保ちつつ、普段から働きやすい労働環境をつくることが必要でしょう。


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投稿者プロフィール

柏谷英之
柏谷英之
柏谷横浜社労士事務所の代表、柏谷英之です。
令和3年4月から中小企業においても「同一労働同一賃金」が適用されました。これは正社員 と非正規雇用労働者(有期雇用労働者・パートタイム労働者・派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目指すものです。これまでのように単にパートだからという理由だけで「交通費や賞与はない」ということは認められません。
これからは「同一労働同一賃金」に対応するため、正社員 と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差を是正しなければいけません。
「働き方改革」が推進され、残業時間の上限規制(長時間労働の是正)、有給休暇の取得義務化など、法律はめまぐるしく変わっています。また「ブラック企業」という言葉が広く浸透し、労働条件が悪いと受け取られる企業は採用にも苦労しています。
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