医師の時間外労働上限規制!特例水準指定が必要なのは?宿日直許可とは?

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2019年から始まっている時間外労働上限規制から5年の猶予を経て、2024年4月から医師の時間外労働上限規制が始まります

しかし、医療業は生命にかかわる業務であり、これまで医師の長時間労働により支えられてきた側面も否めません。そのため一般企業に比べその上限は高めに設定されており、以下の特例水準(連携B水準・B水準・C水準)が用意されています。

A水準(原則) 960時間
連携B水準(他院での兼業・副業あり) 1,860時間
B水準(地域医療確保) 1,860時間
C水準(研修医等) 1,860時間

一般企業の時間外労働上限が720時間に対し、原則のA水準で960時間。月平均では80時間。80時間というと過労死ラインとされる時間です。これを超えて特例水準は1,860時間。月平均155時間。この特例水準も2035年までに廃止されることになっており、すべての病院の時間外労働の上限が960時間までとなる計画です。

特例水準の申請が必要な病院

副業・兼業先での労働時間を通算して、時間外・休日労働が年960時間を超える医師がいる病院
は、特例水準の指定申請が必要です。

ただし、夜間・休日における宿日直許可がある場合には、その宿日直の時間は労働時間にカウントされません。まず宿日直許可を取得しましょう。

宿日直許可取得のポイント

・ポイント1 常態として、ほとんど労働をする必要がないこと(いわゆる寝当直)
原則ほとんど待機、あっても簡易的な業務のみであり睡眠時間が十分に確保されていることが必要です。

・ポイント2 宿日直手当の額
同院において宿日直を行っている医師の1日あたりの平均賃金額の1/3以上の宿日直手当を支払っていること。

・ポイント3 宿日直の回数
宿直は週1回、日直は月1回が限度。

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宿日直許可申請に必要な添付書類

上記の要件を満たした上で、宿日直許可申請のため用意する資料

1.対象労働者の労働条件通知書、雇用契約書の写し
2. 宿日直勤務に従事する労働者ごとの、一定期間(例えば1か月)の宿直または日直勤務の従事回数がわかるもの(宿日直の当番表、シフト表など)
3.宿日直勤務中に行われる業務が発生する頻度、当該業務の内容及び当該業務に従事した時間について、一定期間の実績(または見込み)が分かる資料等(業務日誌等)(※)
4.対象労働者全員の給与一覧表(法37条の割増賃金計算の基礎となる賃金)及び宿日直手当額計算書
5.事業場等を巡回する業務がある場合は、巡回場所全体とその順路を示す図面等
6.宿直の場合は宿泊設備の概要がわかるもの

(※)3について、宿日直時間中の待機・睡眠の状況、実稼働状況がわかる横軸のグラフの作成をお勧めします。

宿日直許可が取得できていれば、その時間は労働時間にカウントされませんが、宿日直時間中に通常の業務が発生し対応した時間は、通常の労働時間扱いとなり割増賃金の支払も必要です。

申請先は、管轄の労働基準監督署です。

特例水準申請の流れ

1、働き方改革に関する会議体の設置
2、自院内での医師の労働時間の把握。労働時間、研鑽時間の区別。
3、副業・兼業を行っている医師の把握。副業・兼業先の病院の宿日直許可のありなし。
4、医師労働時間短縮計画(時短計画)の作成
5、医師会が運営する「医療機関勤務環境評価センター」へ提出する自己評価シートの作成
6、都道府県に特例水準の申請
7、2024年4月に向けた36協定の締結

評価センターへ提出する自己評価シートの中に、上記1の働き方改革に関する会議体の設置があります。
2035年までには、時間外労働が年960時間に収まるような取り組みが必要であり、病院全体で働き方改革、時間外労働削減に向けた体制の整備が必要になります。

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勤務間インターバルについて

2024年4月から始まるルールとして、勤務間インターバルがあります。退勤から翌日の出勤までの間に一定時間を確保するものであり、A水準の病院は努力義務ですが、特例水準の病院は義務となります。

1、始業から24時間以内に9時間の連続した休息時間を確保。(通常の日勤、宿日直許可のある宿日直に従事する場合)
宿日直許可のある宿直に連続して9時間以上従事する場合は、9時間の連続した休息時間が確保されたものとみなされます。ただし、宿日直許可のある宿直中に通常の業務を行った時間は、その時間分の代償休息を翌月末までに付与します。

2、始業から46時間以内に18時間の連続した休息時間を確保(宿日直許可のない宿日直に従事する場合)

長時間労働医師への面接指導について

もう1つ、2024年4月から始まるルールとして、長時間労働の医師に対する面接指導があります。
時間外・休日労働が月100時間以上見込まれる医師に対して100時間以上となる前に必要となるもので、「面接指導実施医師養成講習」を受講した「面接指導実施医師」が行います。

この面接指導は、A水準適用医師にも必要となりますが疲労の蓄積が認めなられなければ、100時間以上となった後遅滞なく実施することも可能です。

まとめ

とにもかくにも、まずは労働時間の適正な把握が必要です。

労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間です。出勤から退勤の打刻はあるけど、その間実際どのような時間配分であったかは不明という病院も多いです。通常の労働時間、自己研鑽の時間、任意の勉強会への参加時間などの区別や、兼業・副業を行っているかの把握、疲労回復のための勤務間インターバルの確保、時間外労働が長時間になった場合の面接指導など、対応することが多々あります。

各都道府県に設置された医療勤務環境改善支援センター(勤改センター)などを活用して、進めていきましょう。


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投稿者プロフィール

柏谷英之
柏谷英之
柏谷横浜社労士事務所の代表、柏谷英之です。
令和3年4月から中小企業においても「同一労働同一賃金」が適用されました。これは正社員 と非正規雇用労働者(有期雇用労働者・パートタイム労働者・派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目指すものです。これまでのように単にパートだからという理由だけで「交通費や賞与はない」ということは認められません。
これからは「同一労働同一賃金」に対応するため、正社員 と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差を是正しなければいけません。
「働き方改革」が推進され、残業時間の上限規制(長時間労働の是正)、有給休暇の取得義務化など、法律はめまぐるしく変わっています。また「ブラック企業」という言葉が広く浸透し、労働条件が悪いと受け取られる企業は採用にも苦労しています。
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