解雇と退職勧奨、解雇は危険

はじめに
「解雇」と「退職勧奨」という言葉、聞いたことはあるけれど、正確な違いをご存知でしょうか? 企業が従業員との雇用関係を終了する場面では、この2つの対応方法がよく使われます。ただ、やり方を間違えると、後から思わぬトラブルになることも…。
今回は、それぞれの意味や法的な位置づけ、注意点などをわかりやすく整理していきます。特に中小企業の経営者にとって、知っておきたいポイントをまとめました。
解雇と退職勧奨の違い
解雇とは
解雇とは、会社が一方的に従業員との雇用契約を終了させることをいいます。 本人の同意がなくても成立するため、その分、法律では厳しく制限されています。普通解雇、懲戒解雇、整理解雇など、いくつか種類がありますが、いずれにしても「正当な理由」が必要です。会社には解雇権があり、解雇はできるのですが、その解雇が有効かどうか争ったときに「正当な理由」がなければ無効とされてしまいます。
退職勧奨とは
退職勧奨は、会社から「退職を考えてみては?」と従業員に働きかける方法です。 あくまでも“提案”であって、本人の同意がなければ成立しません。無理やり退職を迫るような対応をすると、違法行為になる恐れもあるので、慎重な進め方が必要です。
法的な位置づけの違い
解雇は法律で明確に制限されており、条件を満たしていないと「無効」になるケースもあります。 一方の退職勧奨は合意に基づく退職のため、手続きさえ丁寧であれば、比較的リスクは低いとされています。ただし、実態としては“辞めさせた”と見なされると、事実上の解雇と判断されることもあるため、注意が必要です。
解雇の危険性
解雇権濫用法理
解雇には「解雇に客観的に合理的な理由があること」と「解雇が社会通念上相当であること」が必要です。 この2つを満たしていないと、裁判などで解雇が無効になる可能性が高まります。 従業員の復職命令や未払い賃金の支払いが命じられることもあり、企業にとっては大きなリスクです。
解雇の妥当性を判断するポイントとして、主に次の4つが挙げられます。
- 解雇理由が具体的かどうか
- 過去に適切な指導を行ってきたか
- 就業規則と整合性があるか
- 解雇までの手続きが妥当だったか
このあたりが不十分だと、思わぬ労働トラブルにつながりやすくなります。
解雇無効のリスク
解雇が無効と判断されると、原職復帰の命令が出るだけでなく、解雇を争い裁判をしている期間中の賃金の支払いも求められることもあります。 さらに、会社の評判が下がったり、他の従業員のモチベーションにも悪影響を及ぼす可能性があります。 「やむを得ず解雇」といった状況であっても、手続きや証拠の整備はしっかり行っておく必要があります。
正当な解雇の条件
解雇の4つの類型
会社が行う解雇には、次のような種類があります。
- 普通解雇:能力不足や勤務態度不良などが理由
- 懲戒解雇:規則違反など重大な問題行動があった場合
- 整理解雇:経営上の理由による人員削減
- 諭旨解雇:懲戒解雇に準じつつ、本人に退職の道を提示
それぞれの性質によって、求められる手続きや証明のハードルも異なります。
整理解雇の4要件
整理解雇を進める場合には、以下の4つの要件を満たす必要があります。
- 人員削減の必要性があるか
- 解雇回避の努力を尽くしたか(配置転換、希望退職の募集など)
- 解雇対象者の選定基準が公平か
- 手続きが妥当であったか
これらを丁寧に準備しておかないと、整理解雇も「無効」と判断されることがあります。
懲戒解雇の注意点
懲戒解雇は最も重い処分です。 そのため、就業規則で懲戒事由として明示されていることが大前提になります。 さらに、本人への事前通知や弁明の機会を設けるなど、手続きの適正性も重要です。 一つでも抜けていると、無効と判断されることもあります。
退職勧奨の適切な進め方
事前準備の重要性
退職勧奨を行う前には、対象となる従業員の勤務状況や評価、過去の指導履歴などをしっかり把握しておくことが大切です。退職勧奨は“打診”であって強制ではないため、相手の事情に応じた進め方が重要です。
面談の進め方
退職勧奨の面談では、いきなり「辞めてください」と切り出すのではなく、まずは会社の状況や本人の業務上の課題について丁寧に説明するところから始めます。1回で結論を出すのではなく、複数回にわけて信頼関係を築きながら進めていくイメージが基本です。話し合いの内容は必ず記録を残しておくようにしましょう。
退職条件の交渉
退職に合意する際には、退職日や退職金、失業給付の取扱い、退職理由の扱いなど、具体的な条件の確認が必要です。一方的に提示するのではなく、本人の事情を考慮した提案を行うことで、納得を得やすくなります。交渉の結果は、書面にまとめてお互いのサインをもらうことで後のトラブルを防げます。
解雇・退職勧奨に関する労働紛争
典型的な紛争事例
退職勧奨の場面で起こりがちなトラブルに、「強制された」「辞めさせられた」という主張があります。たとえば、連日のように退職を促す面談を重ねたり、第三者の前で退職を勧めたりといった行為があった場合、後から「これは実質的な解雇だった」と判断される可能性があります。
紛争を避けるための対策
紛争を防ぐためには、面談の回数、日時、やりとりの内容を記録しておきましょう。また、同席者を設けて客観性を担保するのも良いでしょう。ただしこちらの人数が多すぎても、圧迫されたという印象を持たれる可能性もありますので注意が必要です。。さらに、就業規則や労働条件通知書などの整備ができていない場合は、まずはその見直しが大前提です。
紛争発生時の対応
仮にトラブルに発展した場合は、社内だけで解決しようとせず、弁護士や社会保険労務士などの専門家のサポートを受けながら、感情的な対立にならないよう冷静に対応していくことが大切です。
人事労務管理における予防策
就業規則の整備
就業規則には、解雇や退職に関するルールを明記しておくことが重要です。たとえば懲戒解雇の事由や、弁明機会の確保、自宅待機など、具体的な手続きをルール化しておけば、判断に迷わず進めることができます。周知義務にも注意し、従業員がいつでも見られる状態にしておくことも忘れずに行ってください。
コミュニケーションの重要性
職場での日常的なコミュニケーションがしっかり取れていれば、従業員の不安や不満を早い段階でキャッチできます。結果として、事前に対応できるため、大きなトラブルに発展しにくくなります。1on1ミーティングや社内アンケートなど、小さな取り組みでも継続的に行うことが大切です。
まとめ
解雇と退職勧奨は、似ているようでまったく異なる対応です。 解雇には法律上の厳しい制限があり、適切な手続きを踏まなければ思わぬリスクにつながります。一方、退職勧奨は合意に基づく対応ですが、その進め方を誤ると解雇と同じようなトラブルに発展することも。
いずれにしても、普段からの制度整備と信頼関係の構築が大切です。日々の人事労務制度の適切な管理運用こそが、いざというときの「安心」につながります。
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投稿者プロフィール

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柏谷横浜社労士事務所の代表、柏谷英之です。
令和3年4月から中小企業においても「同一労働同一賃金」が適用されました。これは正社員 と非正規雇用労働者(有期雇用労働者・パートタイム労働者・派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目指すものです。これまでのように単にパートだからという理由だけで「交通費や賞与はない」ということは認められません。
これからは「同一労働同一賃金」に対応するため、正社員 と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差を是正しなければいけません。
「働き方改革」が推進され、残業時間の上限規制(長時間労働の是正)、有給休暇の取得義務化など、法律はめまぐるしく変わっています。また「ブラック企業」という言葉が広く浸透し、労働条件が悪いと受け取られる企業は採用にも苦労しています。
法律に適した労務管理で、働きやすい職場環境を整え、従業員の定着や生産性の向上など、企業の末永い発展をサポートします。
お困り事やお悩み事がありましたらお気軽にご相談ください。
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