就業規則の不利益変更に、従業員の個別同意は必要か?

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従業員が10人以上となると、就業規則を作成し労働基準監督署へ届け出なければなりません。この場合に、就業規則の内容について、労働者代表(労働者の過半数で組織する労働組合、その労働組合がない場合には労働者の過半数を代表する者)の意見を聴かなければならず、また就業規則の内容は従業員に周知する必要があります。しかし、この意見を聴くとは、必ずしも同意を得ることまで求められていません。

そのため労働基準監督署へ届け出る際にあわせて提出する労働者代表の「意見書」に、仮に「反対」と書かれていても、その就業規則の内容が労働基準法に反しておらず、労働者に周知していれば問題はありません。

では、すでにある就業規則を、労働者に不利となる内容に変更する場合はどうでしょうか。

就業規則の不利益変更

労働契約法第九条(就業規則による労働契約の内容の変更)
使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。

労働契約法第十条
使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度労働条件の変更の必要性変更後の就業規則の内容の相当性労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。

労働者にとって、条件が悪くなる変更を不利益変更といいます。
就業規則では、労働時間、休憩、休日、退職金などその会社に従事する労働者の労働条件が定められています。そのため、これらを労働者にとって不利益に変更するためには、そこに合理的な理由があり、その変更について労働者代表と合意することが必要となります。

不利益変更の具体例としては、以下のようなものがあります。

  • 賃金、退職金の引き下げ
  • 各種手当、福利厚生の廃止
  • 労働時間の増加
  • 年間休日の削減

ポイント

  1. 就業規則を労働者の同意を得ずに、一方的に不利益に変更することは原則としてできない。
  2. ただし、労働条件を不利益に変更することについて、その必要性と合理的な理由があれば可能。
  3. 変更後の就業規則が合理的なものである限り、同意しない個々の労働者にも適用される。

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合理的かどうかの判断基準

  1. 労働者が被る不利益の程度
  2. 労働条件の変更の必要性
  3. 変更後の就業規則の内容の相当性
  4. 労働組合等との交渉の状況
  5. その他の就業規則の変更に係る事情

経営危機回避のための労働条件の不利益変更は、認められやすくはなりますが、役員報酬の減額などの不利益変更を避ける努力をしないまま一方的に従業員の労働条件のみを引き下げることは、認められないでしょう。

裁判例

山梨県民信用組合事件(最2小判平成28年2月19日)

●事実
A信用組合は経営破綻を回避するため、Y信用組合に吸収合併された。
この際にA信用組合の退職金規程が変更され、退職金が大幅に減額となった。
A信組の職員で管理職Xらは、これらの変更について説明を受け同意書に署名捺印した。ただし、説明会で配布された同意書案には、Y信組の従前からの職員と同一水準の退職金が保障される旨記載されていた。
さらにY信組は平成16年2月に別信組と合併し、この合併前の在職期間は自己都合退職の係数が用いられ、また同合併以降の自己都合退職者は退職金を不支給とする変更が追加され、Xらはこの説明を受け説明報告書に署名捺印した。その後、実際に退職金が0となったり、不支給になるなどしてため、Xらは旧規程に基づく退職金の支払いを求めて提訴した。

●判旨
「就業規則に定められた賃金や退職金に関する労働条件の変更に対する労働者の同意の有無については、当該変更を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけでなく、当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容および程度、労働者により当該行為がされるに至った経緯およびその態様、当該行為に先立つ労働者への情報提供または説明の内容等に照らして、当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも、判断されるべきものと解するのが相当である。」

結論として、退職金が0となるような大きな変更であるにもかかわらず、その点についての情報提供が不十分であったとして、この不利益変更は認められませんでした。このように慎重に説明し、同意を得て進めていたと思われる場合でも、不利益の程度があまりにも大きい場合には認められないケースもあります。

まとめ

就業規則の不利益変更で紛争が生じた時には、最終的には裁判によって、個別の事情を考慮しながら判断されることになります。しかし裁判になってしまっては、かかる時間、労力、費用も大変です。不利益の程度を慎重に判断し、労働者への丁寧な説明を行い、理解を得ながら変更を進めていきましょう。


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投稿者プロフィール

柏谷英之
柏谷英之
柏谷横浜社労士事務所の代表、柏谷英之です。
令和3年4月から中小企業においても「同一労働同一賃金」が適用されました。これは正社員 と非正規雇用労働者(有期雇用労働者・パートタイム労働者・派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目指すものです。これまでのように単にパートだからという理由だけで「交通費や賞与はない」ということは認められません。
これからは「同一労働同一賃金」に対応するため、正社員 と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差を是正しなければいけません。
「働き方改革」が推進され、残業時間の上限規制(長時間労働の是正)、有給休暇の取得義務化など、法律はめまぐるしく変わっています。また「ブラック企業」という言葉が広く浸透し、労働条件が悪いと受け取られる企業は採用にも苦労しています。
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