はじめに
女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画は、従業員数の多い会社だけの形式的な届出ではありません。採用、継続就業、管理職登用、男女間賃金差異などを確認し、自社の雇用管理を見直すための実務資料になります。
常時雇用する労働者が101人以上の事業主には、一般事業主行動計画の策定・届出義務があります。令和8年4月1日施行の改正により、101人以上300人以下の事業主にも男女間賃金差異の情報公表が必須項目になるため、早めの準備が必要です。
この記事では、中小企業の人事労務担当者が確認したい、対象企業の判断、状況把握・課題分析、行動計画の作り方、届出・公表、男女間賃金差異への対応、管理職への共有を整理します。
一般事業主行動計画の基本
制度の目的
女性活躍推進法は、女性が職業生活で能力を発揮できる環境を整えるための法律です。一般事業主行動計画は、会社が自社の状況を把握し、課題を分析し、目標と取組内容を定めるための計画として位置づけられています。
中小企業では、採用や配置、育児・介護との両立、管理職候補の育成などが日々の実務と直結します。計画を単なる提出書類にせず、採用・定着・評価の改善に使う視点が重要です。
101人以上の義務と100人以下の扱い
常時雇用する労働者が101人以上の事業主は、一般事業主行動計画の策定・届出が義務とされています。100人以下の事業主は努力義務の扱いですが、採用や定着の観点から自主的に取り組む意義があります。
人数の判定では、正社員だけでなく、常時雇用するパート・有期雇用者を含めて考える必要があります。事業所単位ではなく事業主単位で見る場面もあるため、対象範囲を最初に確認しましょう。
令和8年4月1日改正への注意
令和8年4月1日施行の改正では、常時雇用する労働者が101人以上300人以下の事業主についても、男女間賃金差異が情報公表の必須項目になります。既に301人以上の事業主では義務化されているため、対象拡大として押さえる必要があります。
公表項目が増えると、給与データ、雇用区分、短時間労働者の換算、集計方法の説明が必要になります。給与担当者と人事担当者が別の場合は、早めにデータの集計方法を確認しておきましょう。
最初に行う状況把握と課題分析
採用・継続就業・配置の確認
行動計画を作る前に、自社の女性活躍に関する状況を把握します。採用者に占める女性の割合、勤続年数、配置、育児休業後の復帰、管理職登用など、会社の課題が見えやすい項目を整理します。
数字を見るだけでなく、現場の実態も確認します。応募が少ないのか、採用後の定着に課題があるのか、特定部署でキャリア形成が止まりやすいのかによって、取組内容は変わります。
男女間賃金差異の集計準備
男女間賃金差異を公表するには、対象労働者、賃金の範囲、雇用区分、集計期間を整理する必要があります。給与計算システムから出せる情報と、別途確認が必要な情報を分けておくと準備が進めやすくなります。
差異があること自体を隠すのではなく、どのような要因があるのかを説明できる状態にすることが大切です。職種、等級、勤続年数、短時間勤務、管理職比率など、賃金差に関係する要素を確認しましょう。
現場ヒアリングの使い方
データだけでは、育成機会、配置転換、長時間労働、管理職候補への声かけなどの実態が見えにくいことがあります。管理職や従業員へのヒアリングを行い、制度と運用のずれを確認します。
ヒアリングでは、制度上の障害や運用上のつまずきを把握する姿勢が必要です。結果は行動計画の目標や取組内容に反映し、実行可能な改善策に落とし込みます。
行動計画を作るときの実務
計画期間と数値目標
行動計画には、計画期間、数値目標、取組内容、実施時期を定めます。目標は高すぎても低すぎても実務に使いにくいため、自社のデータと課題に基づいて設定することが重要です。
たとえば、採用応募者の増加、育成面談の実施、管理職候補者の研修、育児休業復帰後の面談など、会社が実際に取り組める内容を選択します。目標と取組が結びついているかを確認しましょう。
届出と社内周知
策定した一般事業主行動計画は、主たる事業所の所在地を管轄する都道府県労働局雇用環境・均等部(室)へ届け出ます。提出様式が更新されることがあるため、最新の様式を確認します。
計画は社外への公表だけでなく、社内周知も重要です。従業員が計画の存在を知らなければ、取組への協力を得にくくなります。掲示、社内ポータル、説明会など、自社に合った周知方法を選びましょう。
女性の活躍推進企業データベースの活用
情報公表では、厚生労働省の女性の活躍推進企業データベースを活用できます。求職者や従業員が情報を確認しやすい形で公表することは、採用や企業イメージにも関係します。
自社ホームページで公表する場合でも、掲載場所や更新日を分かりやすくしておく必要があります。公表した情報が古いままにならないよう、更新担当者と見直し時期を決めておきましょう。
男女間賃金差異への対応
集計前に雇用区分を整理する
男女間賃金差異を確認する前に、正社員、契約社員、パート、嘱託などの雇用区分を整理します。区分の定義が曖昧だと、集計結果の説明が難しくなります。
給与データだけでなく、所定労働時間、職務内容、等級、役職、勤続年数も確認します。差異の背景を把握するには、単純な平均額だけでなく、雇用管理の構造を見る必要があります。
賃金制度の見直しにつなげる
男女間賃金差異の確認は、賃金制度そのものの点検にもつながります。手当、評価項目、昇格基準、配置転換、短時間勤務者の処遇などを確認し、不合理な差がないかを見ます。
制度を見直す場合は、就業規則や賃金規程との整合性が重要です。変更内容が従業員に不利益となる可能性があるときは、説明、周知、移行措置を慎重に検討しましょう。
管理職と現場に共有したいポイント
採用・配置での判断基準
行動計画の取組は、人事担当者だけでは実行できません。採用面接、配置、育成、評価の場面で管理職がどのような判断をするかが重要です。管理職には、計画の目的と具体的な取組を共有します。
採用や配置で性別に基づく思い込みが残っていないか、育成機会が偏っていないかを確認します。現場の判断基準をそろえることで、計画が形式的なものになりにくくなります。
育児・介護との両立支援
女性活躍を進めるうえでは、育児や介護との両立支援も重要です。制度があっても、利用しにくい雰囲気や業務調整の不足があれば、継続就業やキャリア形成に影響します。
管理職には、休業・短時間勤務の制度だけでなく、復帰後の面談、業務配分、評価への影響を確認する視点を共有します。制度利用者だけに負担や遠慮が集中しない運用が必要です。
「育児・介護との両立支援」は、担当者の経験だけで処理すると対応が分かれやすい項目です。判断基準、例外時の相談先、従業員へ伝えること等を事前に用意しておくと、管理職と現場に共有したいポイントを継続的に管理しやすくなります。
ハラスメント防止との関係
妊娠・出産・育児休業等に関する不利益取扱いやハラスメントは、女性活躍の取組を阻害します。行動計画とあわせて、相談窓口、管理職研修、発言や評価の注意点を確認します。
現場で不用意な発言があると、制度利用をためらう従業員が出ることがあります。管理職が初動対応を誤らないよう、相談を受けたときの連絡先と記録方法を明確にしておきましょう。
届出・公表後の運用管理
進捗確認の時期を決める
行動計画は、策定して届け出たら終わりではありません。計画期間中に、取組が実施されているか、数値目標に近づいているかを確認する必要があります。
年に一度の確認だけでは、軌道修正が遅れることがあります。採用時期、評価時期、賃金改定時期など、会社の年間スケジュールに合わせて進捗確認を組み込みましょう。
更新資料を一元管理する
計画書、届出控え、公表画面、集計資料、社内周知資料、管理職研修資料は、一か所で管理します。担当者が変わったときに資料が見つからないと、次回計画や情報公表に支障が出ます。
資料には作成日、確認日、参照した公的情報、担当者を記録します。古い様式や古い公表内容を使い続けないよう、更新のタイミングを管理表に入れておきましょう。
次回計画へつなげる
計画期間が終わったら、目標の達成状況と取組の効果を確認します。達成できなかった場合でも、原因を整理すれば次回計画の改善材料になります。
女性活躍の取組は、採用、教育、評価、賃金、働き方を横断するテーマです。単年度の作業として扱わず、会社の人材戦略と結びつけて見直すことで、実務に定着しやすくなります。
行動計画を作る前に整理したいこと
対象企業の判定
常時雇用する労働者数を確認し、101人以上に該当するかを判断します。正社員だでなく、パート、契約社員、アルバイト等の名称にかかわらず期間の定めなく雇用されている者は常時雇用する労働者に該当します。一定の期間を定めて雇用されている者であって、過去1年以上の期間について引き続き雇用されている者又は雇入れの時から1年以上引き続き雇用されると見込まれる者も常時雇用する労働者に該当します
人数が100人前後で変動する会社では、定期的に人数を確認しましょう。対象になってから慌てて準備するより、努力義務の段階からデータを整えておく方が対応しやすくなります。
公表項目と集計方法
男女間賃金差異などの公表項目について、どのデータを使うか、誰が集計するか、いつ確認するかを決めます。給与計算委託先がある場合は、必要なデータを出せるか事前に確認します。
集計結果は経営者、人事、給与担当者で確認し、説明できる状態にします。公表前に、計算式、対象期間、対象者の範囲を確認することが重要です。
社内説明と管理職共有
行動計画の内容を従業員に周知し、管理職には取組の目的と実務上の役割を共有します。計画が人事部門だけの資料になると、現場の行動は変わりません。
説明資料には、計画期間、目標、取組、相談先、情報公表の場所を簡潔にまとめます。従業員から質問が出たときに誰が回答するかも決めておきましょう。
まとめ
女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画は、届出義務への対応だけでなく、採用、配置、育成、賃金、働き方を見直す実務の入口になります。令和8年4月1日施行の改正で男女間賃金差異の公表対象が広がるため、対象企業は早めにデータと説明資料を整える必要があります。
中小企業では、対象者数、行動計画、届出、公表、管理職共有を一つの流れで管理することが重要です。最新の厚生労働省情報を確認し、社内の年間スケジュールに組み込むことで、形式的な対応ではなく実際の雇用管理改善につなげやすくなります。
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投稿者プロフィール

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柏谷横浜社労士事務所の代表、柏谷英之です。
令和3年4月からすべての企業に「同一労働同一賃金」が適用されました。
「同一労働同一賃金」に対応するため、もし正社員と非正規雇用労働者(契約社員、パート社員等)の間に不合理な待遇差があるなら是正しなくてはいけません。
また少子高齢化を背景に、働き方の転換のための「働き方改革」が推進されています。
残業時間の上限規制(長時間労働の是正)、有給休暇の取得義務化、令和4年に続き令和7年4月と10月の育児介護休業法改正など、法律はめまぐるしく変わっています。
「ブラック企業」という言葉が広く浸透し、労働条件が悪いと受け取られる企業は採用にも苦労しています。
法律に適した労務管理で、働きやすい職場環境を整え、従業員の定着や生産性の向上など、企業の末永い発展をサポートします。お困り事やお悩み事がありましたら、お気軽にご相談ください。
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