労務管理とは

会社を作り、従業員を雇用すると、社長には様々な義務が発生します。
労災保険、雇用保険、健康保険、厚生年金への加入から、従業員の労働時間の把握、健康配慮義務、安全配慮義務。一人起業なら良いですが、従業員を雇用するとただ売上に直結する業務だけ行えば良いというわけにはいきません。

労務管理とは、従業員の給料をはじめとする労働条件の決定や、適切な労働時間の管理、福利厚生等の労働環境の整備など、従業員の入社から退職までの労働に関する一連の管理業務を指します。

改めて労務管理に必要な基本事項をおさえておきましょう。

従業員を採用したとき

労働条件の明示

従業員を採用したら労働条件を明示し、雇用契約書を締結しなければいけません。厳密には口頭でも雇用契約自体は成立しますが、労働基準法で以下ような労働条件の明示が義務付けられていますので、結果的に雇用契約書や労働条件通知書を作成明示し、また就業規則を明示することになります。

(1)労働契約の期間に関する事項
(2)就業の場所及び従業すべき業務に関する事項
(3)始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時点転換に関する事項
(4)賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金等を除く。)の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
(5)退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

必ず保管、法定三帳簿

「労働者名簿」従業員の氏名、生年月日等の基礎情報。
「賃金台帳」 従業員の給料支払い情報。
「出勤簿」  従業員の出勤記録、労働時間記録

を法定三帳簿といい、労務管理において必ず管理、保管が必要な書類です。労働基準監督署が調査に来た場合、まずはこの三つの書類を求められ、なければ行政指導を受けることになります。
また、法人である会社で従業員を雇用すると、労災保険、雇用保険、健康保険、厚生年金保険に加入します。その時に必要な情報としても、この法定三帳簿が必要になりますので、必ず作成しましょう。

出勤日数、労働時間が重要 

雇用保険や社会保険の加入するかしないかは、従業員の労働時間で決まります。

雇用保険は、1週間の労働時間が20時間以上、社会保険は1週間の労働時間が30時間以上で加入するのが原則です。また、従業員が退職した場合に発行する離職票(失業保険受給に必要)や、育児介護休業中に受給できる給付金の申請、病気ケガで休んで給料がない場合に受給できる傷病手当金の申請等も、出勤日数や労働時間が必要になります。

そもそも会社(事業主)には、従業員が業務によって病気やケガをしないよう、また快適に業務を行うことができるように配慮する義務があります。長時間労働になっていないか、休憩、休日は適切に取れているか、職場でハラスメントが起こっていないか等々。

長時間労働による睡眠不足等によって、人身事故など起こった場合などには、会社の責任が追及されることになります。

ハラスメント対策

パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、マタニティハラスメントなど、職場における快適な環境環境整備の一つにハラスメントの防止があります。

令和4年4月には中小企業でもハラスメント防止措置が義務化されたことにより、従業員の関心も高まっています。妊娠出産しても働き続けることができる職場環境やハラスメントの起こらないような取り組みがされているかなど、働きやすい職場か、働き続けたい職場か、従業員にも見られています。

従業員が結婚、出産したとき

従業員が結婚、出産したときは、扶養者情報が変わります。

配偶者、子ができますので、扶養控除申告書などを改めて提出してもらいます。家族手当や扶養手当等の名称で家族を扶養する従業員への手当があれば、給料の変更が必要です。
また扶養する家族の保険証の発行手続きや、配偶者が年収130万円未満なら国民年金の3号扶養の手続きが必要です。

正しい給料計算

法定労働時間は、1日8時間、1週間40時間です。これを超える労働には、36協定と呼ばれる「時間外労働・休日労働に関する協定届」を労働基準監督署へ届け出なければいけません。36協定の届け出がなければ、残業させること自体が違法となっていまいます。

また、法定労働時間を超える労働時間には、1.25倍や1.35倍した割増賃金の支給が必要です。もちろん各県に定められている最低賃金以上の給料を支払うのは絶対条件です。

「残業込みで月給いくらね」と実質的に残業代を支払っていなかったり、「管理職だから残業代なし」としている場合もよく見聞きしますが、適切に行わないと、争った場合にはすべて否定されて、残業代を再計算して支払うように命じられることもあります。

変形労働時間制として、1日8時間を超えるシフトを組んだりすることは可能ですが、法律に則って適正に行わないと未払い残業代が発生しますし、何より従業員の不信感を招き、結果的に人材不足に陥ることもあります。

人事評価制度

人事評価制度も、労務管理の一つです。

業務の内容、習熟度、勤続年数等により、職務等級を決めたり、昇給や賞与の判断基準にしたりしますが、従業員の少ない会社では、社長の一存で決まることも少なくありません。
従業員数人のうちは仕方のない面もありますが、就業規則が作成義務となる従業員10人以上となってきたら合わせて作成すると良いでしょう。

従業員が退職したとき

雇用保険、健康保険、厚生年金保険の資格喪失手続きを行い、離職票を発行します。離職票は退職者が、ハローワークで求職の申し込みをした場合に受けられる失業保険の手続きのために必要です。また退職者市町村の国民健康保険に加入する場合には、退職証明書(社保喪失証明書)を発行します。

退職金が支払われる場合にはその手続きをし、定年退職で継続再雇用する場合には、改めて労働条件の決定などが必要です。

まとめ

SNS全盛の時代となり、違法な労働環境、労働基準法違反は、従業員のほうが敏感です。人手不足の中、職場環境の改善の取り組みがない会社には応募がなかったり、入社してもすぐ辞めるということが起こっています。悪意はなくても知らず知らずのうちに違法な状態になっていたということがないように、専門家に相談しながら労務管理を行っていくことをお勧めします。

税理士さんに全部やってもらっていると聞くことも多いですが、税理士さんは税務の専門家で、労務の専門家は社会保険労務士です。まったく専門分野が違いますので、労務管理は社会保険労務士に相談しましょう。

投稿者プロフィール

柏谷英之
柏谷英之
柏谷横浜社労士事務所の代表、柏谷英之です。
令和3年4月から中小企業においても「同一労働同一賃金」が適用されました。これは正社員 と非正規雇用労働者(有期雇用労働者・パートタイム労働者・派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目指すものです。これまでのように単にパートだからという理由だけで「交通費や賞与はない」ということは認められません。
これからは「同一労働同一賃金」に対応するため、正社員 と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差を是正しなければいけません。
「働き方改革」が推進され、残業時間の上限規制(長時間労働の是正)、有給休暇の取得義務化など、法律はめまぐるしく変わっています。また「ブラック企業」という言葉が広く浸透し、労働条件が悪いと受け取られる企業は採用にも苦労しています。
法律に適した労務管理で、働きやすい職場環境を整え、従業員の定着や生産性の向上など、企業の末永い発展をサポートします。
お困り事やお悩み事がありましたらお気軽にご相談ください。