中小企業経営者が押さえるべき“休憩時間の原則と実務対応”

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はじめに

「6時間勤務なら休憩なしで大丈夫?」「残業中の休憩は必要?」といった疑問は、現場の管理者や経営者がよく抱くテーマです。労働時間と休憩時間の関係は、労働基準法で厳格に定められており、違反すると行政指導や未払い賃金請求のリスクが生じます。とくに中小企業では、現場の実態に合わせた柔軟な運用をしているつもりが、結果として法違反になっているケースが散見されます。本記事では、2025年現在の法令・行政通達に基づき、休憩時間の原則・例外・運用ポイントを社会保険労務士の視点でわかりやすく解説します。

労働基準法における休憩時間の基本ルール

労働時間に応じた休憩時間の付与義務

労働基準法第34条では、使用者は労働時間の長さに応じて以下の休憩を与える義務があります。

  • 6時間を超える場合:少なくとも45分
  • 8時間を超える場合:少なくとも1時間

つまり、6時間ちょうどで終業する勤務では、休憩を与えなくても違法ではありません。一方で、6時間勤務の予定でも15分でも残業を行えば、45分の休憩を確保する必要があります。
この規定は正社員だけでなく、パート・アルバイト・契約社員などすべての労働者に平等に適用されます。勤務時間の端数に関わらず、所定時間と実際の労働時間を明確に把握することが重要です。

休憩は「労働時間の途中」に与える

休憩時間は労働の中間に与える必要があります。たとえば、午前9時から午後5時勤務の場合、「17時以降に1時間休憩」は認められません。労働と労働の間に休息を挟むという趣旨があるため、勤務中に実質的な休養時間を確保しなければなりません。

休憩時間の分割は「常識の範囲」で

法令では休憩時間をまとめて与えなければならないとは定められていません。1時間の休憩を「45分+15分」など、分割して与えることも可能です。ただし、10分×6回のように細切れすぎると、実態として休憩と認められない場合があります。業務効率と従業員の疲労回復を両立する形で設定することが望ましいです。

「一斉付与」の原則と例外

原則は「全員同時に休憩」

労働基準法第34条第2項では、原則として休憩は労働者全員に一斉に与えなければならないとされています。昼休みの時間帯に会社全体が一斉に業務を止めるのはこのためです。電話対応などを行う一部従業員が休めない場合には、後述する例外規定や協定が必要になります。

一斉付与が除外される業種

一斉休憩が困難な業種については法令で例外が認められています。たとえば次のような業種です。

  • 運輸・交通業
  • 商業・金融・広告業
  • 通信業
  • 医療・福祉・保健衛生業
  • 接客・娯楽業
  • 官公署・農林水産業

これらの業種では、交代制で休憩を取らせることが可能です。ただし、それ以外の業種で交代休憩を導入する場合は「労使協定(36協定とは別)」を締結する必要があります。実態に合わせた休憩の与え方を明文化し、労働基準監督署への届出を行うことでリスクを回避できます。

休憩時間の本質は「完全な自由」

労働からの完全な解放が必要

休憩時間とは、単に業務を中断する時間ではなく、労働者が「完全に労働から解放されている時間」を指します。
例えば、以下のようなケースは休憩とは認められません。

  • 昼休み中に電話番や来客対応をしている
  • 休憩時間中に会議準備や資料コピーを行う
  • 呼び出されたら対応を求められる状態で待機している

これらは「拘束時間」として労働時間に含まれます。従業員が自由に過ごせない時間は休憩ではなく、賃金支払い義務が発生する点に注意が必要です。

会社が指定できる範囲

休憩時間は労働者の自由利用が原則ですが、業務上の必要から「休憩時間の時刻(例:12時〜13時)」を指定することは可能です。ただし、「誰かが当番で残る」「上司が外出を禁止する」といった制約は、自由利用の趣旨に反するため不当とみなされる場合があります。現場運用のバランスが求められます。

残業時間中の休憩の扱い

基本的には追加休憩の義務なし

1日8時間勤務(休憩1時間)で、終業後に残業を行う場合、追加の休憩を与える義務はありません。すでに法定の「1時間休憩」を確保しているためです。
ただし、残業が長時間に及ぶ場合や深夜勤務に入る場合には、労働安全衛生の観点から自主的に短い休憩を設けることが推奨されます。

夜間・長時間勤務のケース

夕方から翌朝までの夜勤など、15時間を超える勤務の場合でも、法定上は「1時間休憩」で足ります。しかし、実際には集中力の低下や健康リスクが伴うため、複数回の休憩を設けることが望ましいです。特に深夜2時〜4時の時間帯は生理的な眠気が強く、事故防止の観点からも適切な休息が不可欠です。

実務で多いトラブル例

「6時間勤務予定だったが、1時間残業して休憩を取らなかった」というケースでは、会社が休憩を与えていないとして法違反に問われる可能性があります。現場では「残業する前に45分休憩を挟む」など、柔軟な対応を行うことが必要です。

2025年時点の行政動向と企業対応

働き方改革の流れと休憩制度

厚生労働省は、過重労働防止の観点から「勤務間インターバル制度」や「休息時間の確保」に関するガイドラインを強化しています。法定休憩時間を満たしているだけでは十分でなく、実質的な休息を確保できているかが問われる時代です。
特に運輸・医療・福祉分野では、休憩時間を確実に取らせるための監査が強化されています。

中小企業が注意すべきポイント

休憩制度は「労働時間管理の一部」として見られます。勤怠記録上、休憩の有無や開始・終了時間が不明確だと、後に「実際は休めなかった」と主張されるリスクがあります。
近年はAI搭載型の勤怠システムが普及しており、スマホ打刻や自動休憩記録なども可能です。小規模企業でも導入が進んでおり、管理負担を減らしながら法令遵守を実現できます。

労使トラブルを未然に防ぐ方法

就業規則に「休憩時間の与え方」「分割の可否」「残業時の扱い」を明記し、実態と乖離しない運用をすることが大切です。現場の声を聞きながら柔軟に調整し、必要に応じて労使協定を更新することで、トラブルの芽を事前に摘むことができます。

休憩制度を適切に運用するための実務チェックリスト

  1. 就業規則に法定休憩時間を明記しているか
  2. 実際の休憩時間が勤怠記録に反映されているか
  3. 残業前後に休憩が適切に取られているか
  4. 一斉休憩が困難な職場では労使協定を締結しているか
  5. 電話番や当番制が「拘束」となっていないか
  6. 長時間勤務者への健康配慮措置が取られているか
  7. 勤務間インターバル制度を導入・検討しているか

これらを定期的に点検することで、法令違反や労使トラブルを未然に防げます。

まとめ

休憩時間は「働かせない時間」ではなく、「従業員の健康と生産性を守るための時間」です。
6時間を超える労働には45分、8時間を超える場合は1時間の休憩が必要であり、これは正社員・パートを問わず全員に平等に適用されます。形式的な休憩ではなく、実際にリフレッシュできる環境を整えることが、職場全体の安全とパフォーマンス向上につながります。




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投稿者プロフィール

柏谷英之
柏谷英之
柏谷横浜社労士事務所の代表、柏谷英之です。
令和3年4月からすべての企業に「同一労働同一賃金」が適用されました。
「同一労働同一賃金」に対応するため、もし正社員と非正規雇用労働者(契約社員、パート社員等)の間に不合理な待遇差があるなら是正しなくてはいけません。
また少子高齢化を背景に、働き方の転換のための「働き方改革」が推進されています。
残業時間の上限規制(長時間労働の是正)、有給休暇の取得義務化、令和4年に続き令和7年4月と10月の育児介護休業法改正など、法律はめまぐるしく変わっています。
「ブラック企業」という言葉が広く浸透し、労働条件が悪いと受け取られる企業は採用にも苦労しています。
法律に適した労務管理で、働きやすい職場環境を整え、従業員の定着や生産性の向上など、企業の末永い発展をサポートします。お困り事やお悩み事がありましたら、お気軽にご相談ください。