36協定の特別条項を使ったときは、協定に書いた健康・福祉確保措置を対象者に実施し、その実施状況を記録して保存します。「特別条項を使った」「本人に声をかけた」という記録だけでは、協定どおりの措置が行われたか確かめられません。
実務では、従業員ごとに「対象となった理由・協定で定めた措置・担当者・実施日・実施結果・保存先」を結び付けると、実施漏れを確認できます。この記事では、一般業種の人事労務担当者が、手元の協定を実施記録に落とし込む手順を整理します。
最初に、今の36協定で約束した措置を確認する
まず、現在有効な36協定と届出の控えを開き、特別条項の「限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康及び福祉を確保するための措置」を確認してください。社内の一般的な健康管理制度と、協定で実施を約束した措置は、内容が一致しているとは限りません。
法令上、特別条項を設ける場合には、この措置を協定で定める必要があります。また、使用者には措置の実施状況に関する記録の保存義務があります。根拠は労働基準法施行規則第17条です。
一方、36協定指針では、医師による面接指導、終業から始業までの休息時間の確保、勤務状況や健康状態に応じた代償休日・特別休暇の付与などから協定することが望ましいとされています。これは、例示された措置を全社がすべて実施するという意味ではありません。自社が協定した措置を読み取り、その条件で実施することが出発点です。厚生労働省の施行通達・指針第8条関係で、例示の内容を確認できます。
「健康診断を行う」と記載してあるから定期健診の名簿を保存すればよい、とは限りません。対象者、実施条件、時期が協定の内容に合っているかを照合します。措置の意味や実施条件が読み取れないときは、担当者だけで都合のよい解釈を決めず、労使で内容を確認し、必要に応じて労働基準監督署などへ相談してください。
月末を待たずに、対象者と実施担当をつなぐ
月の限度時間は原則45時間、年の限度時間は360時間です。対象期間が3か月を超える1年単位の変形労働時間制の適用者は、月42時間・年320時間になります。ここでいう時間外労働と法定休日労働は分けて把握し、協定の起算日で集計します。本稿では、自動車運転者や医師などの特例は扱いません。
月次の確定時間だけを見ると、休息時間の確保など、働かせる段階で必要な措置が後手に回ります。次の担当の受渡しを社内で決めておきましょう。以下は実施漏れを防ぐための運用案です。
- 人事・勤怠担当が、協定の期間に合わせて実績と見込みを確認し、月・年の限度時間を超える見込みの人を把握する。
- 所属長が、特別条項を使う具体的な事情と協定上の手続を確認し、人事へ対象者と勤務予定を渡す。協定に定めた労使の手続は、限度時間を超える前に行う。
- 措置の実施担当が、協定で定めた条件・時期に合わせて休息や休暇、医師の面接などを手配し、実施結果を記録する。
- 人事責任者が、対象者一覧と実施記録を照合する。未実施の人は理由・次の担当・対応期限を残し、対応完了まで追う。
年の限度時間を超える場合も対象の確認が必要です。月の時間外労働が45時間以内だからといって、年間の集計を省かないようにします。
特別条項を使うための手続記録と、健康・福祉確保措置の実施記録は、役割が違います。労使の協議記録に署名があっても、それだけで措置の実施まで確認できるわけではありません。長野労働局の「特別条項付き36協定の運用時の留意点」も、所定の手続と、協定した健康・福祉確保措置の実施をそれぞれ示しています。
個人別の記録には、予定と実績を分けて残す
法令が求めているのは、措置の実施状況に関する記録の保存です。下表の項目や個人別の台帳形式を、一律に法定様式として義務付けているわけではありません。自社で実施状況を説明できるようにするための記録案です。既存の勤怠システムや健康管理記録を使い、資料同士を照合できる形でも構いません。
| 項目 | 残す内容 |
|---|---|
| 対象者・対象期間 | 氏名または社員番号、所属、協定上の1か月・1年の対象期間 |
| 対象となった理由 | 時間外労働の実績・見込み、年累計、該当する協定の条件、参照する勤怠記録 |
| 実施する措置 | 協定の該当箇所、具体的な内容、実施条件・時期 |
| 担当と予定 | 実施担当者、手配日、実施予定日、本人への連絡状況 |
| 実施結果 | 実際の実施日・内容、照合した資料、確認者と確認日 |
| 未実施・追加対応 | 未実施の理由、次の対応、担当者、期限、完了確認 |
| 保存管理 | 協定の有効期間、保存期限、保存先、閲覧できる担当者 |
例えば、次は説明用の架空の記録です。一般の労働時間制を採る会社が、協定に「月45時間を超える者について、当該月の終業から次の始業まで11時間以上の継続した休息を確保する」と定めていると仮定します。11時間は、この例で会社が定めた条件です。
対象者:社員番号A001。対象期間:2026年9月1日~30日。9月18日の確認で、時間外労働が月45時間を超える見込みとなったため対象に登録。所属長Bが以後の勤務予定を調整。翌月2日に人事Cが確定勤怠を確認し、時間外労働52時間、当該月の各終業から次の始業までの最短休息時間11時間30分、協定条件を満たすことを確認。実施内容と各勤務間の時刻は勤怠明細へ記録し、対象者台帳から参照できるように保存。
この例では、予定表を変更した日と、実際に休息を確保できたことを確認した日を分けています。「予定を入れた」「面接を案内した」だけで実施済みにせず、実績と照合するのがポイントです。
実施できなかったときに、記録だけを「済」に直してはいけません。何ができなかったかを残し、勤務の見直しや必要な対応を進めます。別の措置を行っただけで、協定した措置を履行した扱いにもしないでください。
保存期間は、実施日から3年と数えない
実施状況の記録は、協定の有効期間中と、その有効期間が満了した後3年間保存します。労働基準法施行規則第17条第2項の本則は満了後5年間ですが、同規則附則第71条により、当分の間は3年間とされています。原稿確認日現在の取扱いです。現行の労働基準法施行規則で両方を確認できます。
例えば、協定の有効期間が2026年4月1日から2027年3月31日までなら、2026年9月の措置の記録も、協定満了後の2030年3月31日まで保存する、という管理になります。実施した月ごとに3年後を削除期限にすると、保存期間が足りなくなります。
社内では協定ごとに保存期限を付け、更新前の協定・実施記録・参照する勤怠資料をたどれるようにしておくと、担当交代時にも確認できます。医療情報などを含む資料は閲覧者を絞り、通常の進捗台帳には実施日や別管理資料の参照先を残すなど、必要な情報だけを扱う運用にしましょう。
医師による面接指導は、別制度の条件も確認する
協定上の措置として医師の面接指導を定めている場合は、その協定の条件に従って実施します。それとは別に、労働安全衛生法に基づく長時間労働者の面接指導制度があります。
一般の労働者については、週40時間を超えて労働した時間が1か月当たり80時間を超え、疲労の蓄積が認められ、本人から申出があった場合、事業者は医師による面接指導を行う必要があります。単に給与計算上の残業が80時間を超えたかだけで判定せず、対象と算定方法を確認してください。80時間を超えた本人への時間情報の通知も必要です。厚生労働省の面接指導制度のQ&Aに条件が整理されています。
協定に基づく措置の実施で、この制度上の対応が自動的に完了するわけではありません。医師の面接が必要な人には、実施と事後の対応を担う担当へつなぎます。個別の健康判断を人事担当者だけで行わないことも大切です。
まずは、今月の対象者一覧に、協定で定めた措置の欄と担当者・実施結果の欄を加えて照合してみてください。「対象者は分かるが、誰が実施するか決まっていない」という箇所を埋めることが、措置を確実に行うための第一歩になります。
※この記事は2026年10月19日現在の公的資料を基にしています。
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投稿者プロフィール

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柏谷横浜社労士事務所の代表、柏谷英之です。
令和3年4月からすべての企業に「同一労働同一賃金」が適用されました。
「同一労働同一賃金」に対応するため、もし正社員と非正規雇用労働者(契約社員、パート社員等)の間に不合理な待遇差があるなら是正しなくてはいけません。
また少子高齢化を背景に、働き方の転換のための「働き方改革」が推進されています。
残業時間の上限規制(長時間労働の是正)、有給休暇の取得義務化、令和4年に続き令和7年4月と10月の育児介護休業法改正など、法律はめまぐるしく変わっています。
「ブラック企業」という言葉が広く浸透し、労働条件が悪いと受け取られる企業は採用にも苦労しています。
法律に適した労務管理で、働きやすい職場環境を整え、従業員の定着や生産性の向上など、企業の末永い発展をサポートします。お困り事やお悩み事がありましたら、お気軽にご相談ください。
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